和田静子
食堂のおばちゃん
今回のクロストークインタビューは、「食堂のおばちゃん」こと和田静子さんです。
1月30日に食堂で働いていた先輩方に集まっていただき、おばちゃんを囲んで座談会を行いました。
参加していただいた先輩は、
松河剛司さん(6期生)、長谷川麻衣さん(6期生)、田中揚子さん(8期生)、濱口皓太さん(9期生)、井村旭宏さん(9期生)です。
今年度いっぱいで食堂を引退されるおばちゃんから芸工生へのメッセージをお伺いしました。
―おばちゃんはここにいつから勤めていらっしゃるんですか
芸工のキャンパスが名古屋市立女子短期大学だった頃から働いています。だから40年くらいになるでしょうか。
女子短大の初めの頃は売店だけで厨房は無くて、パンとアイスクリームを売っていました。そのころは食堂の二階は全部部室で、テニスや茶道、ギターマンドリンなどがあって賑やかだった。店を閉めるときに声を掛けると二階から学生さんがアイスクリームを買いに降りてくるから、なかなか閉められないってこともありました。テニス部は食堂の外のガラスを鏡代わりに素振りをしていたし、毎日合唱部の発声練習の声が聞こえていましたよ。食堂にあるピアノはそのときのものなの。
―そんなに長く勤められているんですね。芸工ができた当初から芸工を見ていらっしゃったと思うのですが、1期生の頃と今とでは食堂に変化がありますか。
1期生の頃は今ある芸工の建物もまだ無くて、みんなが集まれる場所も無かったからね、授業が無い学生さんはいつも食堂で集まってテレビを見たりしていましたよ。その頃は生徒も少なかったですし、みんな顔を覚えていますよ。授業の後に「おばちゃん、何か残っていない?」って食堂に来た学生さんに食事を出したり、お弁当を作ってあげたこともありました。今みたいに生協だとできませんけど、当時はわたしが個人でやっていましたから。
―おばちゃんは本当に、学生にも、食堂にも愛情をもってお仕事されていますよね。
わたしはこの店に凄く愛着があるんです。カウンターひとつでも傷つけちゃいけないなって思って使っています。学校のものなんですけどね、自分のうちのお勝手以上に大切に使っているつもりです。
食堂に新しく入った人も若い人ばかりだし、よく働いてくださっている。こんなに綺麗にしてもらえたし、みなさんもこれからも食堂を利用してくださいね。
―学生を注意したり叱ったりすることもありますか?
「プレゼンするときにはきちんと身だしなみを整えなさいよ」と言ったりします。芸工ではプレゼンして人の前でしゃべることも勉強のひとつでしょう。これから社会に出て行くんだから、そういったこともしっかりできるようになるといいですよね。
それから芸工は時間にルーズな学生さんもいるでしょう。でも時間を守ることや約束を守ることは、一番大事。時間を守れない人はやっぱり約束も守れない。そういうことは食堂のアルバイトの学生さんにはしっかり注意しますよ。
―おばちゃんはお母さん的視点で指導されていますよね。その他に芸工生にアドバイスはありますか
普段そんなに4年生と1年生が話をする機会は無いけれど、例えば食堂のアルバイトしている学生さんは各学年にいたから手伝いをしていると先輩の姿も見るし、話を聞く機会があるでしょう。それはとてもプラスになることだと思います。だから、私はいつも「先輩のお手伝いをさせてもらいなよ」と言っています。
勉強のことも先輩に聞いて、教えてもらったらいい。お手伝いさせてもらうと、目で勉強させてもらえますから。たとえば建築系の模型作りでも、お手伝いをすると、先輩のいろんなものを見せてもらえますよね。周りの人をいっぱい見て比較して、それだけで勉強になるじゃない。ああこうやって作るんだなとか。
お手伝いしたら、先輩と繋がることもできるし、いいことばかりですよ。
―40年間もずっとここで仕事を続けてこられましたよね。長く続けられる秘訣ってあるんですか。
わたしの旦那が亡くなったときも、食堂に来ました。その日ぐらい休めばいいのにって周りの人に言われましたけれど、わたしがいなかったら、学生さんたちがご飯を食べられない。学生さんのことを思うとどうしても休めない。そういった気持ちで毎日来ていました。
最近も足の親指が腫れて痛くて、息子に「食堂休んで病院行って来なよ」って言われても、雪の日に「転んだら危ないから休みなさい」って言われても、仕事に来ました。40年休まずに食堂に来ていたのに、あと少しのところで休んでどうなるのって。
―どうしてそんなに生徒のために尽くしてくださるんでしょうか
「情けは人のためならず」って言葉があるじゃない。食堂のバイトの学生さんにはいつも良く覚えておきなさいって言うんですが、人のために情けをかけると、その場では返ってこなくてもいつか自分に戻ってくるから、って。
わたしも芸工の子が卒業して活躍しているのをみると嬉しいし、どこかで会うといつものように「おばちゃん」って声を掛けてくれて、自然と「いってくるね」「いってらっしゃい」ってやり取りができることが、すごく嬉しい。そういうことがみんなにしてあげたことの、ご褒美みたいなものだと思っています。
―芸工生はおばちゃんにとても感謝していますよ。
最近、学生さんから手紙を頂いたんです。「おうちに帰って読んでね、おばちゃん」って言って。わたしは申し訳ないことにその子の名前も知らなかったんだけど、その手紙には「寒い日にパンを買おうとしたら、おばちゃんが今日は寒いから味噌汁を飲んだほうがいいよって言ってくれた」とか、今までどういうことをしてくれてありがとうって、いっぱい書いてあったんです。わたしが何気なくやっていたことが、こんな風に思われていたんだなって、食堂のバイトでもない学生さんから、そういうふうに言ってもらえて、ほんとに涙が出るほど嬉しかった。
―そんなことがあったのですね。最後に芸工生に伝えたいことはありますか。
このあいだも、私が食堂に立つ最後の日にたくさんの方が来てくださって、ほんとにほんとに嬉しかったです。食堂をがんばってきて良かったなと思いました。わたしは学生さんや先生方、事務の人、みんなに生かされて、40年休まずにここまでこれたと思っています。
今でも卒業生が電話や手紙で、展示会のお知らせや受賞の連絡をくれたりするんです。また、学生さんと触れ合えたことももちろんですが、芸工の学生さんたちから建築や芸術などにも触れ合えて、自分の感性にも影響してもらえたって思っています。それは他の職場ではできないこと。わたしはほんとにみんなのおかげで幸せなお仕事をさせてもらえたなって、思っています。ほんとにみんなありがとう。
これからも、皆さんの健康とご活躍をお祈りしていますよ。
食堂のおばちゃんお疲れさま会のお知らせ
月日:2011年4月24日(日)
場所:芸術工学部北千種キャンパス
●川崎和男名誉教授による記念講演会
16:00~ (15:30 開場)
図書館上大講堂
●食堂のおばちゃんお疲れさま会
18:00~ (記念講演会終了後、受付開始)
アセンブリーホール(食堂)
詳細はこちらから(同窓会のサイトが開きます)どうぞふるってご参加ください。
インタビュワー
竹森佳奈
12期生(平成19年度入学)デザイン情報学科―インタビューの感想―
記事には書ききれないほど沢山、おばちゃんの芸工生への愛情を感じるエピソードを聞くことができて、とても楽しいインタビューでした。
この学部ができた当初から、おばちゃんは芸工のお母さん的存在で、芸工の変化も見守られてきていることが伝わってきました。
おばちゃんの愛してくださっている芸工の空気を受け継いで、これからも大切にしていきたいと思います。