Vol25. 2024年4月 新谷 陸さん 芸術工学部14期生

株式会社オリバー
東日本営業部 東日本デザイン第1部 東京デザイン第1事務所 次長

2013年3月 名古屋市立大学 芸術工学部 デザイン情報学科(グラフィックデザイン専攻) 卒業
2013年4月~現在 株式会社オリバー

―まず新谷さんの現在のお仕事について教えてください。

オリバーという総合インテリア製造・販売の会社に勤めていて、入社11年目になります。

部署としてはWPS開発部の東京WPSデザイン課の次長をしていて、ワークプレイスソリューションというオフィスのインテリアデザインや設計の仕事をしています。(インタビュー当時2024年4月時点)

オリバーという会社は、元々コントラクト家具メーカーとして一般のBtoC向けではなく、完全にBtoB向けの公共施設の家具をずっと販売していました。 

現在は家具販売に加えて、空間コンサルティングやデジタルソリューションを取り入れながらデザインや設計まで行っていて、内装の工事や家具の販売を超えたところまで力を入れて取り組んでいます。 

私は家具メーカーのインハウスデザイナーとして、空間設計とデザインをするチームにいます。

―直近で携わったお仕事のことを紹介していただけますか。

直近で携わった仕事がこちらのオフィスになります。お客様が来て接待する場所であるゲストエリアを特にこだわりたいという依頼でした。

▲株式会社ストラテジーテック・コンサルティング ゲストエリア

家具だけじゃなくて壁をどこに作るか、ガラスをどこに入れるか、照明を何にするか、床と天井の色もどうするか等を計画したり、アートパネルを作ったり、サイン計画もしたりしています。 

−全部やられるんですか。 

空間に関わってくる、見えてくるところは全てやりますね。見えないところで言うと、照明設計、電気設備工事とか、あとは空調設備工事、防災設備工事のところも打ち合わせしながら、設計していくことになります。 

−デザインだけではないんですね。 

そうです、そこが設計の部分ですね。建築学科に近いと思うんですけど。

会議室にはファブリックアートも入れてますが、グラフィックに近いところもあるので、幅広いデザインの知識が必要になります。

−すごい、3学科全て合わせたような人じゃないとできないですね。

あとはオフィス以外にスタジアムとか、今だとバスケットボールがすごい人気になってきていますが、アリーナの内装もデザインすることもあります。もちろん家具のみデザインするケースもあります。

―どうしてデザインの道に進んだのか、芸工に入ったきっかけについて教えてください。

元々は親が歯医者をやっていて、 ずっと歯医者になるって言ってたんですけど。

−全然、進路が違いますね。 

はい。昔から落書きとか、漫画とかがすごい好きだったんですよね。

高校3年生の夏ごろに、学校の50周年のキャラクターを募集するコンペがあって、それで応募した作品が選ばれて。なんかそういうの楽しいなって思いました。

センター試験ギリギリぐらいのタイミングで、親に「やっぱりデザインとか芸術系の大学に入りたい」って、ちょっと怖かったんですけど話をしました。ただデッサンとか全然練習したこともなかったので美大とか実技でいけるところは多分難しいなと判断して、センター試験重視で行けるところを探しました。

高校は寮にも入っていたので、親にもなかなか会えなくて。

勇気を振り絞って話をしたら、母と祖母に心配されたんですけど、父は好きなことをやればよいみたいな感じだったので何とかこの大学に入れました。 

−大きな決断でしたね。

怖かったです、当時は。

―大学時代から今に至るまで、デザインにおいてどのように取り組まれていましたか?

最初は、イラストレーターになりたいなって思って大学に入りました。

-なるほど。

3年生からは、森旬子先生の研究室に入ってグラフィックを専攻していました。

専攻のきっかけは、、、卓展ってまだありますよね?

−まだあります!

(・卓展とは、名古屋市立大学芸術工学部の学生による作品展示会。学部の4年生を中心に様々な分野の「卓」と呼ばれるプロジェクトを開き、学生同士で学びや交流を深めながら作品を作る。)

卓展のときに、グラフィック専攻の先輩の卓に入って、すごい楽しいなって思ったんです。そもそもデザインをわかっていなかった状態で、デザインってこういうことなんだっていうのを初めて知って。

そこからイラストレーターではなくグラフィックデザイナーになりたいっていう気持ちになりました。 

−卓がきっかけだったんですね。

−森旬子先生の研究室では、どういった制作をされていましたか。

広告、ポスター、そういうのがメインかな。パッケージとかも多かったですかね。ただ、アウトプットが下手くそで、最初のアイディアを考えたり、コンセプトをまとめたりするのはいつも面白くていいって言われてたんですけど、発表時の作品はあまり評価を得られることも多くなくて、、アウトプット力ないなって感じたりしてました。 

僕も、「誰かのために世の中に役立つためのデザインをしたい」っていうよりは、「おしゃれでかっこいいやつを作りたい」っていう気持ちが強かったので、それを森先生はすごく心配してくれていたんだと思います。 

−そうなんですか。 

なので卒業制作のときも、本当に何か美大生がやってるようなアーティスティックでよくわからんけどかっこいいみたいなやつをやりたかったんですけど、森先生からは建築学科(都市環境デザイン学科 以下同様)で卒業制作をやった方がよいと言われました。 

視覚障害者の人たちとマップを作る活動をしている研究室があって、視覚障害者の人とコースを一緒に歩いたりしながら、大須の商店街の点字のマップを作るという制作をやっていました。

なんかそういう、ちゃんと世に役立つというか、面白いよりは堅実で、デザインの根本的なところを森先生は伝えたかったんだと思います。

−そうだったんですね。

社会人になって改めて大事なことだなと感じました。

▲新谷さんの卒業制作「大須まちなみマップ」

▲大学時代の作品1「HOME NAME」

▲大学時代の作品2「Beesion」

―大学時代がグラフィック専攻で、そこからオリバーに就職されたきっかけはなんですか。

元々は東京でグラフィックデザイナーになりたいなと思いながら就活してたのですが、うまくいかなくて。就職浪人になっちゃうなって思ってたら、親が名古屋に遊びに来ることになって、大学も浪人させてもらってたので、やばいと焦っていた時に、オリバーに入社した先輩から「新入社員を急募しています」と大学に連絡が来たんです。正規の締め切りはもう終わってたので、それが11月ぐらいでしたね。 

−4年生の11月ですか。 

そうです。親に怒られたくない一心で入ろうって思って、家具やインテリアは全く分からなかったのですが、何とか入社できました。

−全然分野が違いますけど、それでも入らなきゃって感じだったんですね。 

だから1年半ぐらいはやっぱりグラフィックやりたいなという気持ちで、すごくやる気がなかったんです。でも、転勤で大阪に行って、同僚の貪欲な姿勢や周囲の環境が刺激になって、そこからやる気スイッチが入ってちゃんと学んでやっていこうという気持ちになりましたね。 

−グラフィック専攻から空間デザインの分野に進まれたんですよね。設計などの専門分野についてどのように勉強されたんですか?

入社したときは全然分からなくて、建築学科の人とそのジャンルに関してもっと話をしていたらよかったと思ってました。使ってるソフトも違うし、パソコンもMacじゃなくてWindowsだし。それこそ図面なんて入社して初めて見たんですよね。

なので入社して初めての質問が「窓ってどれですか」っていう。笑

勉強したというよりは、もう仕事しながら覚えたっていう感じですね。最初は本当に何も分からなかったです。

現在の芸工生に向けて

芸工での経験の中で、今でも役に立っているなと思うことはありますか。

さっき話した「アイデア作りとかコンセプト作りが好き」っていうところは、グラフィックデザインにおいても考えるのが大好きだったので、今もすごく活きています。

あとは、お客さんに見せるプレゼン資料の紙面構成とか表現の仕方、インテリアの色使いなどは周囲から評価されていました。

インテリアの配色も、建築系学科出身の男子が使う色が、少ないとか、グレー系になるみたいな傾向があるんですけど、「色使いがうまくていいね」とよく先輩社員に言われました。そこは、グラフィックやっててよかったかなって思っています。 

うちのデザイナーは100人ぐらいインハウスでいるんですけど、グラフィック出身で空間デザインをしてる人がいないんです。僕以外みんな建築学科とか環境デザイン学科、空間デザイン学科とかそういう人が多くて。

−グラフィックの経験が、他の人にはない強みなんですね。

そうですね。結構社内でも異色みたいな感じだったので、逆に差別化ができてよかったなと思ってます。

逆に学生時代もっとこうしておけばよかったなって後悔してることはありますか。

皆さんって授業を真面目に受けてますか。 

−私は課題だけはちゃんと出そうっていう感じです。笑

課題とかじゃない、講義系の授業も受けてます? 

−1年生の時からいくつか受けてますね。 

 あれ、僕あまり真面目に受けてなかったんですけど、 

 −はい。笑 

空間以外でもそうかもしれないんですけど、そういうデザインや美術の歴史を知っておくのってすごく大事だなって痛感していて。

やっぱり様式とか、そういったところも学んでいないと物事のベースになってくるので、本当にちゃんと受けておけばよかったなって思っています。

あとは「グラフィック専攻だからグラフィックのことだけやるんだ!」っていう感じではなく、他のジャンルを専攻している人と、もっとコミュニケーションをとっていろんなジャンルについて話をしたり、交流したりしておけばよかったなっていうのは思います。

建築学科がこんなに近いのに、アトリウムに展示された模型を「大きくてすごい」とか「複雑で細かくてすごい」ぐらいでしか見てなかったから。ちゃんとよく見て、気になる作品があったら、その人に「これってどうなってるの?」と話しかけに行くとかしておけば、もっと幅が広がったなっていうのは感じます。 

卓展とかいろんな展示を大学でもしてると思うんですけど、紙面のパネルを見たからわかった気になるんじゃなくて、ちゃんと作った人の生の声を聞くのは大事だなと思いました。

−確かにこんなに近くにいますもんね。近いようで意外と関わりが少なかったりしますね。 

だから、課題も研究室とか学科を超えてやってみたらもっと面白いのになっていうのは思います。空間のデザインで言ったらやっぱり全部の要素がないと成立しないので。

例えば、何かのテーマのもと1つの空間を作る課題で、プロダクト専攻の人だったら家具やモノを、建築専攻だったら箱(建築物)を、小物とかがいるんだったら、それを専攻している人にやってもらって、その建物のロゴとかサイン計画とか、建物がオープンしたよっていうポスター作りとかはグラフィック専攻が担当して、テキスタイル研究してる人がいたらここの家具とか内装はこういうファブリック入れましょうとか、音はこうしよう、匂いをこうしようとか、CM打ち出すんだったら映像を作ろうとか。

なんか本当に全部の学科と研究室を超えられるような課題をもっと芸工でやってもいいんじゃないかなっていうふうに感じました。 

−確かにすごく聞いていて、楽しそうだなって思いました。

もしできたら、芸工としての幅が広がるんじゃないかなって思います。

各研究室の先生からいろんな目線や角度で講評してもらえるとか、楽しそうですよね。

新谷さんご自身は大学時代に学部学科を超えた交流とか、違う学科の考え方に影響されたなっていう経験はありますか。

学部学科を超えた活動でいうと、「もりづくり会議」というところに入ってました。

建築学科の院生が森の再生プロジェクトを起こしていて、城山の森の再生計画に参加して、そのイベントのポスター作りや当日のワークショップの企画、そのためのツール制作などを、研究員の方や芸工の先輩のやまとさん(12期生 橋本大和さん)とベーコンさん(13期生 鈴木公平さん)と一緒にやっていました。

子供とかもいっぱい来るので、森でシイタケを作りましょうとか、どういうものが森にあるか見ましょうとか、

どんぐりをデザインした袋に詰めて、キャラクターのタグを作って、イベントに参加してくれた子供に配るっていうのもやってました。そのために授業をさぼってドングリ拾いに行ったりしたこともありました、、

−さぼり方が珍しいですね。 笑

はい、真冬でめちゃめちゃ寒い中、どんぐり拾ってましたね。

▲もりづくり会議の活動(上左・上右:活動内で制作したツール、下左:活動内で制作したツール、下右:参加者の様子)

あと、らすかるさん(13期生 平野佑典 萱光会現会長)とは環境探検隊っていうCBCのラジオ放送にも参加していました。

−ラジオですか?

そうです。やってましたよね?

平野:そうです、そうです。そのときちょうど、三菱の電気自動車の事業に大学の卒業生で関わっている方がいて、三菱のPRを兼ねてその電気自動車であちこちお邪魔して、「番組の1コーナーを作ろう」というのをやってたんですよね。

−芸工でそんなこともやっていたんですね。

平野:何でもありだったねえ。

そうですね。 

あとは、鈴木研究室のホスピタルアートにも2回ほど参加しました。羊の絵描いたりとか。

だから振り返ったら、結構建築の人と割と関わってたのかなっていうのは今になって思ってます。 

−森の再生プロジェクトもホスピタルアートも建築の研究室ですもんね。活動内容を聞いていて私も参加したくなっちゃいました。

最後の質問になります。新谷さんが考える「芸術工学とは」ということで、他の美大や工学部とは違う、芸術工学部で学ぶことの強みについてお聞かせください。

僕も他の美大や工学部をよく知らないのですが、何となく感覚的なものと論理的なものの融合を学べるところかなと感じてます。やっぱりいろんなジャンルがあっていろんな研究室があるので、選択の幅が広がるのはすごくいいですよね。 

あとは今になってよかったなって思うのが、仕事してる中でグラフィックとかウェブをどうするとか、そういった話が出たときに、知り合いに頼めるのはすごい大きいなと感じます。同じ分野の人しか周りにいなかったら、そこで完結しちゃうんですけど、自分がやってないジャンルをやってる友達がたくさんいるっていうのは社会人になってからもすごく強みになると思っていて。

僕が入社して5年目ぐらいから、空間デザインを行うフェーズに入ったときに、「芸工の人とオフィシャルで仕事したいな」っていうのを強く感じ始めました。

それも社内に何名か芸工出身の人がいて、その人たちと仕事を一緒にしていくにつれて、社内だけじゃなくて社外の人ともやりたいなって思い始めました。

会社に誘ってくれた大山さん(12期生 大山由佳さん)は、元々はテキスタイルの藤井研究室にいらっしゃった先輩です。会社で取り扱う家具にファブリックなどいろいろ使うので、家具のカタログを作る部署に配属してたのですが、社内のブランディングを行う部署に移りまして、最近は一緒に「place2.5」というオフィス向けカタログの制作を実案件業務と並行して行いました。

▲カタログ「place2.5」(左:新谷さん作成のパース、右:カタログ表紙、カタログ全体のディレクションを大山さんが担当)

あとは16期生の星野(千尋)さんっていう建築の子ですね。星野さんとは一緒に仕事をしたことはないんですけど、いろんな相談や情報交換をしながら、連絡を取り合ったりしてます。

22期生の建築学科卒業の村上(紗也)さんは、今僕のチームで一緒に働いてます。村上さんが新入社員のときに、デジタルハリウッド大学のライブラリーの改装プロジェクトがありまして、一緒にデザインと設計をして空間を作ってました。

▲改装後のデジタルハリウッド大学 メディアライブラリー

左から大山由佳さん(12期)、星野千尋さん(16期)、村上紗也さん(22期)

こちらから、社外の芸工メンバーとの仕事の取り組みです。

らすかるさんの同期のベーコンさんと普段から交流もあったんですけど、一緒に仕事したいねって話をしていました。

−もりづくり会議のメンバーの方ですか。

そうです、もりづくり会議の。

最初の仕事の実績としては、グラフィックウォールになります。先輩に発注してデザインしてもらって、現場で手描きしてもらってるんですけど、お客さんのところにも一緒に行ってもらって、打ち合わせをしながら描いてもらいました。

▲株式会社ストラテジーテック・コンサルティング ゲストエリア
▲グラフィックウォール制作時の現場写真(左・中央:壁面グラフィックの検証、右:施工の様子)

ベーコンさん:鈴木公平さん(13期)

また、こちらもらすかるさんの同期なんですけど、ホテルのデザイン設計を専攻としている社内のチームから「サイン計画できる人いない?」という話が来て、カメールさん(13期生 平井広太郎さん)にお話して、大阪のホテルのサイン計画を今一緒にしてもらっています。

▲&Here大阪難波 サインデザインの一部

カメールさん:平井広太郎さん(13期)

あとは、僕の同期のほりはた まおさん(14期)には、社内で「福祉施設で大きい絵を飾りたい」という話があったので、相談の連絡をして、無事神奈川の福祉施設に絵画を納品してもらえました。

▲特別養護老人ホーム あさくら苑新子安 納品時撮影

ほりはた まおさん(14期)

やっぱり芸工にいたからこそ、これからもいろんなジャンルの人と仕事ができるようになればいいなと思ってます。 

−大学を卒業してからでもこうやって繋がれるのは本当にいいですね。

楽しいですよ。ただ友達だからこそ、いつもだったらふざけ合ってたけど、仕事になると納期とか金額とかしっかりついてくるんで、そこは腹割ってちゃんと話せないとなかなか成立しないというところはもちろんあります。

−そうですね。でもすごい夢がある話だなって思いました。ありがとうございました。

インタビュアー
八十田実優
27期生 産業イノベーションデザイン学科4年

―インタビューの感想―
私もグラフィック専攻ではあるものの、空間やディスプレイの分野に興味があったので、今回は参考になるお話ばかり聞かせていただいて、とてもありがたい機会をいただきました。新谷さんがおっしゃったように、せっかく芸工というさまざまなジャンルを専攻する人が集まる場所にいるので、もっと自分の専攻以外のことにも興味を持って、学内で交流を増やしていけるように頑張りたいと思います。

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