第二制作株式会社
中京テレビ「キャッチ!」報道記者坂井 良弥
4期生 視覚情報デザイン学科 平成14年度卒業
木本研究室
―現在のお仕事や、経歴などを教えてください。
テレビ番組の制作会社(プロダクション)の社員をしていて、今は中京テレビの報道局に出向中です。夕方のニュース番組「キャッチ!」で報道記者を3年ほどやっています。
以前は、別の制作会社で東海テレビの番組のディレクターをしていましたが、最初はバイトでした。就職先が決まらないまま卒業して、しばらく大阪でなんとなく暮らしていたのですが、ちゃんと働こうと思ってバイト情報誌の募集を見て応募したのがきっかけです。
5か月ほどすると、ちょうど愛・地球博が始まる時期で人手がほしいからと言われて、名古屋に戻りました。それから契約社員、正社員と待遇は良くなったんですが、5年ほど同じ番組を担当していたので「テレビマンとして自分の成長にならない」と思って転職しました。バイトから数えると、もう10年になりますね。
―「テレビマン」という言葉があるんですね。具体的にどういう仕事をしているのですか?
テレビ番組の現場には、大きく「制作」と「技術」があって、「制作」には、ディレクターとかアシスタントディレクター(AD)、プロデューサー、アシスタントプロデューサーなどがいます。「技術」には、カメラマン、カメラマンアシスタント、音声、照明、編集マンなどがいます。
ぼくはカメラマンアシスタントの募集に応募していたんですが、入ったらAD、つまり制作の仕事でした。ADは、小道具を用意したり、弁当を買ってきたり、カンペを用意したり、素材を撮影したら内容を文字に起こしたり、テロップを書いたりします。カメラマンさんは、ロケが終われば仕事も終わるけど、制作はそれからチェックしたり原稿を書いたりするので忙しいですよ。
―アルバイトの人がADをすることもあるんですか。
そういうことも多いです。
ロケを進行するディレクターは、制作会社の社員だけでなく、フリー(個人)の立場でやっていることも多いです。台本を書いたり、タレントに「これをしゃべってほしい」とカンペを書いて指示したり、実際に作るのはテロッパーさんやCGさんでも、どういうものを入れるか考えるのは全部ディレクター。放送されているものをすべて作っている感じの仕事です。ぼくもADを経験してから、ディレクターになりました。
転職して、今はニュース番組の報道記者です。「報道」は「制作」とはまた違うもので、制作はバラエティー番組、報道はニュース番組を作ります。今は番組全体までは考えないけど、任されたコーナーではディレクター的なことをしています。
それから記者としてよく番組に出ていますよ。台風が来たりすると、現場で上下雨具を着て、すごい風の中で波打ち際に立つような、そういう役です。それから事件事故が起きたら現場で取材。「犯人の顔写真はないですか」と探したり、遺族にマイクを向けたりすることもあります。
―本当に何でもやるんですね。現場の人たちは、みんな下積みからやるのでしょうか。
ほとんどそうですね。カメラマンも、アシスタントから始まります。
今はだいぶ時代が変わったと思いますが、下積み時代はつらいですよ。地獄みたい。スケジュールを自分で立てられないから、休みが不定期で友達が減ってしまう。夜も飲みについていって、常に先輩のグラスが空いてないか、注文が足りているか気を遣って、店を出たらタクシーを呼んで……と、一日中続きます。上司から嫌味や否定的なことを言われたこともたくさんあるし、それが耐えられなくて辞める人も多い。
でも、ぼくはそんなに大変だとは思わなかった。世の中に出たら、嫌いな人ともうまく関わっていかないといけないし、理不尽なことを言われてもうまくかわしたりしないといけない。お金をもらって、プロとしてやっているからね。それにディレクターは、タレントさんやカメラマンさんなど、人との関わり合いが中心的な仕事だから、気を遣うことを最初に学んでおかないとやっていけないと思います。だからそれを嫌だとは思わなかった。
―自分だったら耐えられないかも……。坂井さん、すごいです。きつかったことは、どんなことですか?
体力的にきつかったのは、2週間くらい平均睡眠時間1時間くらいだったことかな。眠いと思ったら、会社の椅子の裏の通路で横になって寝ました。それで、「そうじのおばちゃん、朝5時に起こして」とか紙に書いて貼っておくと、「坂井くん、起きなよ~」とかって起こしてくれるの(笑)
精神的にきつかったのは、理不尽な上司についたとき。ぼくは、おかしいと思うことは「おかしい」と言ってしまうから、いつもロケのあとに2時間くらい説教されていました。若手を潰しちゃうような名物ディレクターだったんです。でも会社はなかなかうまくできていて、1年か2年くらい我慢すると、体制が変わったりして逃れられるときが必ず来る。これが一生続くわけじゃないと思えば、なんとか頑張れました。
―やりがいのある仕事と思います。思い入れのある番組など、教えてください。
やりがいはすごくあります。視聴率の線がバッと上がったとき、取材した人からお礼の声が来たときなどは、「みんなが見てくれている!」と思って嬉しいです。
去年8月くらいに金山駅で人身事故の救出劇があったときは、助けた人のすばらしさを伝えたくて再現ドラマを作りました。撮影に使える廃線を貸してもらうのに飛騨の神岡まで行ったり、役者さんを呼んだり、血糊を用意したり、あちこちかけ合いました。本格的な再現ドラマは初めて作りましたが、手ごたえがありました。
最近、「坂井のV(VTR)はクオリティが高い」って評価してもらえることが増えました。特に、もともとスポーツが好きで詳しいので、スポーツ系を頼まれることが多いです。ソチオリンピックのときも、いろいろ企画させてもらえました。
制作、報道とやってきていますが、どんなものでも最終的な形をイメージしながら作っていくのは一緒。どう編集しようか、常に考えながら取材をしています。
―現場の空気感が伝わってきます。芸工では、どんな学生でしたか?
もとは絵が好きで、でも純粋芸術だと将来が不安だから、芸工を選びました。
ちゃらちゃらして、金髪丸刈りでピアスして、パチンコやって、ゲーセン行って……。そんな学生だったと思います。遊びが大好きで、授業以外はほとんど学校にいないタイプです。絵はずっと描いていたけど、積極的に発表したり課題で目立ったりするような学生じゃなかった。
―芸工で学んだことで、今に生きていることはありますか?
うーん、そんなこと、みんなあるのかな?(笑) 直接仕事に生きているかは分からないけど、過ごした時間や経験、人間関係ならあるかも。
同期で「SARU」ってアイドルグループをやっていましたよ。学祭とかで歌やパフォーマンスをするんだけど、イベント的なものだけでなくCDや映画の制作もしました。単なる遊びなのに、みんなすごく真面目にやっていて。ぼくはステージには立たず、裏方で楽曲を提供したり作詞をしたりする役割でした。仲間の今泉力哉は今や映画監督で、ほかのやつらもCM制作会社のプロデューサーとか、おもしろいことしています。
こういう、「一生懸命遊んだ!」っていう時間は、今に生きているかも。
―そうだと思います!芸工にいたときから、テレビの仕事を目指していたのでしょうか。
テレビマンになりたいというのは最初からあって、漠然とCMとかの絵コンテをかきたいと思っていました。でも新卒の就職活動では、テレビ局に応募したけど全部だめでした。テレビ局員になるのは、出身大学も影響すると思うし、すごく難しいと思った。実際、番組制作の現場ではプロデューサーなど限られた人だけがテレビ局員で、その他全員がプロダクションの人間という環境が当たり前です。
それで今はディレクターの仕事をしているけど、結果としてよかった。学生時代は、「社会にはどんな仕事があって、何が自分に向いていて楽しいか」ということがよくわからなかった。今は絵コンテマンという職種は成り立たないと思うし、ぼくは単に絵をかきたかったわけじゃなくて、クリエイティブでインタラクティブな仕事をしたかった。テレビの制作は、まさにそうです。視聴者がいて、社会があって、いろいろな関わりの中で、クリエイティブなことができる。
今同じ番組で、芸工2期生の栗本さんって先輩とも仕事をしています。番組全体の構成を考えたり、その日のニュースを選んだりする権限のあるニュースデスクの一人で、頭の切れる優秀な人ですよ。
―すごい出会いです。周囲にいろいろな人がいるのですね。今、学生に伝えたいメッセージなど、ありますか?
インタビューの主旨から外れてしまうかもしれないけど、「仕事だけが幸せじゃない」っていうことも、若い人に伝えたい。結婚して、普通の幸せもいいなって思っています。自分の子どもが生まれたときは、めちゃくちゃ感動しました。女性は自分で生むのだから、ぼくより100倍は感動しているはず。こんな感動や幸せも、絶対に味わってほしいです。
―私はまだ自分のやりたいことや、卒業までに何をしたらいいのか分からず焦ります。何か、自信がない人に向けてアドバイスをください。
勉強じゃなくても、趣味でも、遊びでも、何でもいいと思います。関わる目の前のことを一生懸命やっていけば、人のつながりもできるし、技術も積み重なっていくし、自然といい方向に進みますよ。
最初に入った制作会社の面接にポートフォリオを持って行ったのですが、じつは間違って遊びでつくっていたエロ4コマ漫画を入れちゃってたんです。「やばい」って焦ったんですが、逆にそれを見た面接官がぼくを気に入ってくれて、「制作をやれよ」って採用された。もし4コママンガがなかったら、通らなかったかもしれない。作品で表現できることは、芸工生にとって強みで、すごく大事だと思います。やりたいことを見つけて、全力でやってみてください。
インタビューワ
本田 恵
18期生(平成25年度入学)情報環境デザイン学科―インタビューの感想―
テレビや映画を作成する現場に興味があるので、実際にお仕事をしている先輩のお話を聞けて、とても勉強になりました。仕事の内容はもちろんですが、何を幸せとするかは個人の価値観次第で、さまざまな形の幸せがあるというお話も印象的でした。在校生と卒業生がお話できる、貴重な体験になりました。