Vol21. 2014年2月 水谷 夏樹さん 芸術工学部7期生


一級建築士事務所ナツメ 建築設計

水谷夏樹

芸術工学研究科 平成19年度修了
7期生 生活環境デザイン学科 平成17年度卒業

水谷夏樹さんメイン画像

―独立して名古屋へ戻られたということですが、 東京ではどのようなお仕事をされていましたか?

大学院を卒業後、アトリエ系設計事務所の建築設計白川冨川に就職して、最初の1年はブランドショップの内外装などに関わらせてもらいました。

大学4年の夏からM1の夏くらいまで伊東豊雄さんの岐阜の現場(瞑想の森 市営斎場)に通ってバイトをしていたんですが、所長の白川さんは当時、伊東事務所でその現場を担当していた方なんです。その白川さんと手塚建築研究所出身の冨川さんの二人が組んで、まさに始めたばかりの事務所でした。その後、事務所が2つに分かれることになったので、僕はもともと縁のあった白川さんの方についていって、事務所の立ち上げから4年間勤めました。

白川在建築設計事務所になってからは、僕と所長の二人しかいなかったので、お茶くみから何から全部やって。事務所としては、建築的な仕事の蓄積がないわけなので大変でしたが、「事務所の立ち上げってこうやってやるんだ」っていうのを設計の仕事と同時にみることができて、今すごく役に立っています。白川事務所では、四国のお寺の住職さんが住む庫裏(住宅兼事務所)の主担当をしました。構想2年、見積り調整に1年、建てるのに1年で4年間。ほかにもプロジェクトやコンペなどを幾つもやりましたが、実現したのはこれだけでした。でも、住職さんや施工の方など、色々な人に教えてもらうことができたので、とても勉強になったし面白かったです。

その後2012年の夏に、僕個人への住宅の仕事をいただいて、それを機会に辞めさせてもらうことにしました。一人しかスタッフがいなかったから、迷惑かけちゃったよなあと思うんだけど、でも一歩踏み出そうという感じで今に至ります。最終的にその住宅の話は止まっちゃったのですが、幸い名古屋での仕事もあったので、独立して1年間は東京にいながら月イチで名古屋に戻ってお施主さんにプレゼンしていました。そして2013年6月に、着工に合わせて拠点を名古屋に移しました。

―個人のアトリエ事務所にどういうふうに仕事がくるのか興味がありますが、 東京や名古屋の仕事はどうやってきたんですか?

住宅見学

水谷さん設計の住宅を案内していただきました。

どちらも友人の紹介でした。名古屋の場合は、同じ芸工の後輩の山本幸さんの紹介で、彼女は当時まだ建築士の資格がなかったのと留学中だったので、二人でスカイプでやり取りしながら基本設計を進めました。そのときの資料がこれです。最初は、「こんなイメージですか?」って事例を出していって、お施主さんがどんな家が好きか、好みを聞くところから始めました。

―そこから始めるわけですね。資料を見ると、すごく住人目線で考えられていると思います。建築家ではない一般の方にプレゼンする時に、気をつけることってありますか?

なるべく具体的に話をするっていうことかな。
例えば家具。この住宅はとても小さいので、持ち込みたい家具すべてを入れるのは不可能でした。でもお施主さんにしてみたら、どれだけ置けるか、置けても狭いと感じるか、視覚的に分からないと納得できないですよね。だから、具体的な間取りのパターンを提示して、持ち込みたい家具がどのプランならどこに入れられるか、無理すれば入れられるかといった情報を、すべて描きました。また屋根の形を決める時は、夏至と冬至や、1日の時間帯など、何段階かの光のシミュレーションをCGで描いて、具体的なビジュアルと一緒に説明しました。

―分かりやすいです。先ほど現地でも、住宅の使い方の細かいスケッチがあって、想像しやすいと思いました。

説明資料

CGで描かれた、室内の光の入り具合を時間別に表現した資料。

この住宅は、建築の理論からというよりは、山本さんと一緒に「こういうことに使えるよね、使ってほしいよね」って話しながら設計していました。ファサードがどうとか、都市にどう開くかとかは、建築的にはとても大切なんだけど、お施主さんに言ってもなかなか伝わらないし、それよりは結果住んでみて良かったなって感じてほしい。ある意味で建築的にはちょっとあまい所もあるけれども、このお施主さんが住むおうちとして、「彼らに似合う家ってどんなものかな?」って考えていくと、ああなった。

僕は自分のスタイルや好みから提案するよりもお客さんの価値観に一度合わせてみたいと思っていて。今は相手の土俵にのってみて、そこから何ができるか考えてみる方が面白いと感じています。

芸工祭でバーをやっていた時の話にちょっと似ているんだけど、バーをやっていると、「おれに似合うカクテルを作ってくれ」っていう注文があるんです。そうすると、味の好みを聞いたり、「この先輩はこういう人だよな」と考えたりして、材料や濃さを選んで出して。酔ってるから何でもよかったのかもしれないけど(笑) でもそうやって喜んでもらうことが楽しいと思ったのは、いろんなことの始まりな気がしますね。ちなみにこの事務所のテーブルも、ちょっと小料理屋風のつくりにしていて、打合せがカウンター越しの会話みたいになるようなしつらえにしてます。

―今日淹れていただいたコーヒーもおいしいです!
学祭のバーの体験がまさか仕事につながるとはびっくりです。

学生の頃も、製図室でコーヒーを淹れていたそうです。

そういえば当時、学校も厳しくなっていたので簡単にはできませんでした。酔って騒いだらだめだよと。なのでそれに対してマニュアルを作って、こうやって対処すると教授会にかけあって、事務の人にも相談して。大人な交渉をそこで学びつつ(笑)
そんなことが大もとにあって、今がある感じかな。

基本的にはリクエストに対してそれ以上のものを返せるかどうかが今の興味の対象かな。今後続けていった時に、それから一歩進まないといけないこともあるんだと思うけど、今は。

―私もいつか設計して家を建てたいと思っていますが、失敗したら……と不安になります。どうですか?

完成したら、変更しようがないからね。今回の現場をやっている時もすごく感じて、線を引けば建つは建つんだけど、「本当にこれでいいのかな?」って、かなり迷いました。

例えば、電球の位置一つで一晩でも二晩でも迷い続ける。でも明後日には電気屋さんが来ちゃうから決めてくださいねっていう、その追っかけっこの世界。その中で決めていくのは、それなりのプレッシャーがあります。でもその位置一つでお施主さんの暮らし方が変わるんだとしたら、「今二徹してでもやる価値はある!」と思いながら全力でやっていました。

この住宅が完成して、お施主さんや周りの人がどう思ってくれるか? これから自分が仕事を続けていけるか? 今やっとスタートできたってところです。

―水谷さんは最初から独立前提だったのですか?

最初から自分でやろうと思っていました。自分で作ることが好きなので、組織やゼネコンではなく、自分とつくる人の距離が近いところでやりたいと思ったんだと思います。

白川冨川に入ってから分かったんですけど、やはり独立前提だといろんなことを早いうちに分かっていた方がいい。お施主さんの対応もそうだしお茶くみもそう。設計も一からやらないといけない。規模の大きい設計事務所では、扱う物件も大きくなるのでどうしても分担作業になる。そうすると独立するまでの時間がかかるし、独立しても何から始めたらいいか困っただろうなと。結果的には、僕の性分にはアトリエ系の事務所が合っていたと思います。

あと、白川さんは建築的なアイディアを重要視するのですが、冨川さんはどちらかというと職人気質な方で、それを両方学べたこともありがたかった。研究室時代も同じ事が言えるけど、伊藤先生と久野先生ってアプローチの仕方が違うので、久野先生が芸工にいらっしゃって二人のやり方を学べたのはラッキーでした。

―建築家とか事務所によってアプローチが違うんですね。
芸工のいいところ、芸工だからこそ学べたこと、ほかにもありますか?

もともと絵を描くのが好きだったという水谷さん。色鉛筆のきれいなスケッチ。

例えば、これ(首に下げている銀の鋳造のペンダント)作りました。シルクスクリーンのTシャツも作ったし、工場で使えるものは大体使ったんじゃないかな。芸工棟の3階に置いてあるアールトの模型も参加していて、その時木工室も散々使わせてもらって。

芸工のいいところは、建築と建築以外の分野をあまり分けて考えていなくて、例えば相手に喜んでもらいたいときに、建物を作るよりもいい方法があるなら、いっそ建物は設計しなくたっていいと思う。芸術家みたいに自分で感じたことを大切にする側面と、工学や科学のように客観的に今やっていることが正しいか正しくないか考える側面。二つのアプローチを大切にするというのは今のスタンスにつながっているかな。

―私も、芸工は、解決方法ではなく、いいものを作りたいという考えが最初にあると思います。
芸工の弱みを感じたことはありますか?

プレゼンテーションに対するアプローチはちょっと弱いと思います。

これは就職してからよく思った事だけど、伊藤先生も久野先生も理解力が高すぎるので(笑) こちらのプレゼンが下手でも、図面などから先回りして設計意図を読みこんでくれてしまう。芸工はエスキス(設計のはじめにするスケッチ)でどれだけ考えられるか、設計のプロセスを大事にしているというのもあるかもしれません。でも他の大学は人数が多いので、まず選抜がかかるんですよ。そうすると選ばれる案を作らないといけない。実際、仕事でもそう。分かってもらえなければスタートが切れないんです。だから事務所に入ってからは、プレゼンに気を遣うようになりました。

―なるほど、気をつけます。
今後への展望を聞かせてください。

まずはお施主さんとのやりとりを基本に、相手の出方に対してそれをどう超えたアプローチができるかっていうことを大切にしたいです。そこからさらに一歩進んで、お施主さんとの対話から普遍性や、住宅とか建築一般の話に通用する論理みたいなものにどうつなげられるかが、今後の課題ですね。
インタビューワ

浪崎唯 15期生(平成22年度入学)デザイン情報学科
―インタビューの感想―
建築は、特に責任の重い仕事だと感じていましたが、どんなものづくりでも相手に少なからず影響を与えるものだという話を最後に聞くことができました。私はデザイン情報学科からの参加でしたが、お話からたくさん学ぶことがあり、就職直前にこのようなお話を聞くことができてよかったと思っています。

兼松朋恵 平成24年度入学 大学院芸術工学研究科博士前期課程
―インタビューの感想―
私自身、一般の方を相手に建築の説明をする難しさを感じていたので、お施主さんの目線に合わせた分かりやすいプレゼン方法はとても参考になりました。どのような考え・働き方で建築を設計していくのか、改めて考え直す機会となりました。

塩澤はるひ 14期生(平成21年度入学)建築環境デザイン学科卒
現在、大学院芸術工学研究科博士前期課程
―インタビューの感想―
建築家は一人で作品を作る事はまずなくて、いろんな人と進めていく仕事なのだと実感しました。今回見せていただいた住宅も、水谷さんとお施主さんが一丸となって作り上げたもので、とてもすばらしい、愛着が持てる住宅でした。私もそんな建築を作れる人になっていきたいです。

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