Vol4. 2010年3月 遠藤 頌太さん 芸術工学部8期生


農業ベンチャー 食品安全マーケター※
株式会社M-easy

遠藤頌太

8期生 視覚情報デザイン学科 平成18年度卒業
大学院芸術工学研究科 平成20年度卒業
森島 紘 研究室

※専門的な知識を有し、消費者に安全を届ける職業。
※安全な商品を流通させるためのマーケティング企画立案従事者

遠藤さん

-どんな仕事をされているのですか?

M-easyという常滑で無農薬・無化学肥料にこだわった農業をしている会社で働いています。
会社名は「Making the Earth Alive SYnergy」の頭文字を取ったもので「相乗的に地球を良くしていこう」みたいな意味です。

小さい会社なので事業計画や店舗設計などほぼ全てのことに関わるんですけど、僕の仕事は野菜の販売に特化した「やさい安心くらぶLLP(有限責任事業組合)」事業の活動がメインです。

-入社1年目で会社の全てのことに関わるなんてすごいですね。その「やさい安心くらぶLLP」での仕事を具体的に教えていただけますか?

「やさい安心くらぶ」の野菜がたっぷり使われたご飯を頂きました。元気な野菜からは力がもらえることを体感しました。

「やさい安心くらぶ」の野菜がたっぷり使われたご飯を頂きました。元気な野菜からは力がもらえることを体感しました。

簡単に言えば、野菜の移動販売をやってるんですが、自社で作っている野菜だけでなく、自家用野菜に着目したのがポイントです。

常滑周辺ではたくさんの人が畑を持っていて、多くの方が自家用に野菜などを作っているんです。そういった野菜は自分たちが食べるから無農薬か最低限の農薬で済ませるので、市場の野菜より安心・安全。

その野菜を集めて、我々の考えに賛同して下さる名古屋の飲食店やお花屋さんの土地をお借りして販売する。販売場所を名古屋にしたのは、都心部に行くほど安全な野菜が手に入りにくくなり、消費者のニーズが増えるからです。

仕事の目標が二つありまして、一つはいかに安全な野菜で消費者に健康を届けるか。もう一つは農業を経済的にどうやって自立させるか。

-作り手が食べている野菜なら確かに安心ですね。では、その二つの目標について詳しく教えて下さい。

M-easyでは、土作りにも工夫をしていることをお聞きしました。

M-easyでは、土作りにも工夫をしていることをお聞きしました。

まず安全な野菜についてですが、我々の野菜を買いに来られる方の中には、持病をお持ちの方や、アレルギー体質の方がたくさんいらっしゃいます。

そうした安全を求めて買いにきて下さる方を裏切らないように、今の我々の技術では無農薬栽培が難しい野菜も、「全部無農薬にするぞ」って農家さんと気持ちを一つにしてやっています。

そして豊田市旭町の限界集落では、11人の若者が定住して完全無農薬・無化学肥料の自社製野菜の栽培に取り組んでいます。そこはきれいな清水の流れる山奥の秘境で、若者たちはお寺で共同生活を送っています。

究極の目標として健康な野菜を届けて病気を治すとか、予防医療とかを目指してます。実際に予防医学に力をそそいでいらっしゃる医師と協力して年に一回セミナーを開いたりしています。

農業の経済的な自立を目標にするのは、農業の問題を解決するには後に続く世代が出てこないといけないから。

農業の平均年収は100万円くらいなのですが、それを上げて就職活動の選択肢に農業が普通に出てくるくらいまでにしたいです。まずは自分達が成功事例を作ることで、憧れや夢を持った世代が出てくると思うんです。

-安全な野菜作りは、豊田市にも出来た生産チームに期待が持てますね。そして農業の経済的な自立には、農業は儲からないという固定観念を無くすことが重要なのですね。では解決すべき農業の問題とはなんでしょうか?

僕の実家も兼業農家なんですけど、親の世代は外に働きに出て農業をしているのはまだ祖父母という現状があり、今の課題は祖父母から孫の世代への代継ぎ。でも孫も大半が反発する。そうすると、土地を受け渡せず、耕作放棄になったり、限界集落になっていったりする。

生産側の利益が少ないことも問題です。

例えば愛媛のみかん農家は、みかん一個の卸値が1~3円くらいと聞きます。
卸から小売までの中間経費がすごいかかるので、ほんとに生活できないような値段で取引しているんです。

大手小売に力があるので、小売が値段を下げたら、圧迫されていって生産農家が一番打撃を受ける。我々の会社は中間経費を全部取っ払うために、物流コストはかかるんですけど、自分たちで農家さんのところまで取りに行って、売る。利益配分は売り上げに対して我々と農家さんとで50:50なんですよ。他の会社には無いビジネスモデルです。

-生産者と対等な立場で取引をするビジネスモデルなんですね。本当にやりたい事に向かっていらっしゃるように見えます遠藤さんですが、学生時代に悩みはなかったんですか?

制作や芸術工学の考え方、私の進路相談(笑)など、 まだまだ書き足りない位お話をお聞ききしました。

制作や芸術工学の考え方、私の進路相談(笑)など、 まだまだ書き足りない位お話をお聞ききしました。

今でこそ自分の目標がありますけど、自分は何をすべきなんだろうってずっと思ってました。学部の時は興味のあった環境デザインをテーマにパッケージやグラフィックをやっていたんですけど、自分の中でしっくり落とし込んでる感覚がなかったんです。

なので、もうちょっと考えてみようと大学院に進学して、トリノ工科大学に留学もしました。でも、どんだけもがいてみても、結局しっくりこなかったんです。

そんな時、農業へシフトしていくきっかけが森島先生のアドバイスだったんですよ。修士研究のテーマが決まらず相談したりして、ある時自分の身内話になりまして。
自分の家の農業の後継者問題とかのお話をしたら、「お前、なんでそれやらないんだ」って(笑)。

今だから分かったんですけど、僕は長男で農業の跡継ぎ問題が小さい頃からあったんです。
でも、自分の可能性が断たれるのが嫌で、常にそこから離れるような行動を取ってきた。
それで最終的にはトリノまで行った。

結局何も見つからなかったけど、一旦離れてみると自分っていうのが見えたんですよね。
やっぱり実家の農業のことが常に頭の中をチラつく。
こんなにも気になるんだったら、一回腹決めてやってみようと思いました。
なんとなくとんとん拍子に進んでいったのはそれからですね。

-なにをするか迷われていたなんて、情熱的に仕事をなさっている遠藤さんからは想像がつかないです。今の会社にはどうやって就職されたんですか?

農業をテーマに研究を始めたころは、農業の話題が旬で、新聞記事に今の会社が載っていたんです。
それでコンタクトを取ってお会いし話をしたときに、これって自分がやりたいことの一つの具体例かなって思ったんですよ。

卒業後も気になっていたので、また連絡を取るようになり、そのうちにやっぱりやりたいことに近いなと思いまして。「やさい安心くらぶLLP」という販売事業が始まって間もない頃だったので、自分のやりたいことが出来るんじゃないかなとも思って、迷わず飛び込みました。

-すごい行動力ですよね。その姿勢が、M-easyとの出会いを導いたんですね。今だから言える大事なことはなんですか?

人と会うことを大事にしてください。
何かを成し得ようと一人で長時間かけて努力したことが、
実は人に聞けばたった一分で分かるってことがざらにあるんですよね。

人の力を借りてやればいいから、いかに怖がらずに会ったり吸収しようって思うか。
人に助けられて生きているって感じるし、大学の時の恩師 森島先生、
そういった存在が無ければ今の僕は無かった。
いろんな人に聞いたり意見を言ったりして、進むことってあると思う。

僕も何やりたいか分からなかったけど、見つけようともがき続けたのは確か。
興味を持った人に会いに行ったり、行動したから、結果がよくなってきたっていう感じです。
家で悩んでても、絶対に見つからへん。

神様って見捨てへんもんでね、自分の一番大切な部分を思い切って差し出すでしょ。
すると絶対それに応えてくれる。不思議ですよね、誰かに引っ張られてるような感じ。
すごく抽象的に言うなら、運命(笑)。

-素敵ですね。勇気を出して行動することで、やっと自分らしい景色が見えてくるんですね。最後に遠藤さんにとって芸術工学とはなんですか?

二時間半もの間、ぎゅっと内容の濃いインタビューでした。芸術工学は幅広い分野で活躍ができるのだと教えて頂きました。

二時間半もの間、ぎゅっと内容の濃いインタビューでした。芸術工学は幅広い分野で活躍ができるのだと教えて頂きました。

大学で一番何が養われたかというと、自分の場合は課題解決力だったりバランス力だったりだと思うんです。たとえ専門外の事であっても、ある程度物事を理解してしまえば、芸術工学という学問がどんな分野にでも活かせると思うし、芸工生として社会に通用する実感があります。

今の仕事でいえば、農業を農業の力だけで何とかしようって思っているのではなくて、医学や栄養学、情報を農業と結びつけることで一つの新しい価値にしようとしてるところ。今まで個別だったもの同士を結んだら相乗効果があるんじゃないって感性は、芸術工学のとても良い所じゃないかな。

インタビュアー

稲垣 裕美子
13期生(平成20年度入学)デザイン情報学科
Webデザイン志望

―インタビューの感想―
何かを成し遂げたいと思う、夢の力は偉大だと感じました。
自分の立ち位置が分かって、そこから物事を眺められるような大人に、早く仲間入りしたいです。


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